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失点の激増
先日のコンフェデレーションズカップ以降、日本代表の失点が異常に目立つようになってきました。
ザック就任からコンフェデ杯前まで
38試合 25失点 1試合平均0.66失点
コンフェデ杯以降(東アジア杯を除く)
4試合 13失点 1試合平均3.25失点
2010年9月にザッケローニ監督が日本代表の監督に就任してから、コンフェデ杯の前までの38試合で25失点(1試合平均約0.66点)だったのに対し、コンフェデ杯以降の4試合(東アジア杯は急造のBチームだったので省きます)で13失点(1試合平均約3.25点)と、爆発的に増えてしまっています。単純に比べると1試合当たりの失点は5倍近くにもなっています。一体、この差は何なのでしょうか?ザックジャパンに何が起きたのでしょうか?
コンフェデ杯を境にこの明らかな失点の急増が見られたのには、2つの理由があると僕は思っています。
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崩壊ではなく破壊
まず一つは、対戦相手の強さです。
コンフェデ杯の前までの試合というのは、主にアジア相手の試合がほとんどです。たまに世界のトップクラスとやることもありましたが、あくまで親善試合でした。
それがコンフェデ杯以降というのは、
ブラジル
イタリア
メキシコ
ウルグアイ
と、それまでのアジアのチームとは全く異質と言っていい程、レベルの違うチームと言えます。そしてウルグアイ戦こそ親善試合でしたが、残りの3試合(コンフェデ杯)はもちろん親善試合ではありません。タイトルを賭けたガチンコ勝負の舞台です。
しかもコンフェデ杯というのはワールドカップの予行演習のような大会で、一年後のワールドカップに向けて最高の準備をする為に各国の力の入れようは相当です。
つまり、この「コンフェデ杯の前まで」と「それ以降」という分け方は、ある意味フェアな分け方ではありません。対戦相手の実力が全然違うので、結果も違って当然です。同じような結果が出る方がむしろおかしいぐらいです。
そういう意味では、ザックジャパンの守備陣に何か大きな変化があったというよりも、単に相手が強かったという外因が大きいとも言えます。
「崩壊した」というとなにか内部から崩れたようなニュアンスですが、そうではなく「破壊された」という側面もあるということです。
しかし、それにしても、失点がそれまでの約5倍というのは、相手が強いという外因だけでは片づけられません。そこには、もう一つ非常に大事な要因があると思います。
ワールドカップに向けて
「コンフェデ杯の前まで」と「それ以降」という線を引いて、失点を比較しているわけですが、ここには、もう一つの大事な線が重なって存在しています。
それは「ワールドカップ出場決定以前」と「それ以降」という線引きです。
厳しいアジア予選を無事突破して、本選出場を決めました。今の日本代表のレベルでは、本選出場を決めるというのは達成感よりも安堵感が強いと思いますが、いずれにせよ、油断や慢心が生まれてもおかしくありません。
しかし、本田や長友が「目標はワールドカップ優勝」と公言しているように、海外ビッグクラブに所属しているような選手は目標を高く持っているので、油断なんてものは微塵もなかったと想像します。
むしろ、もっと強くなれる!強くなってやる!もっといいサッカーを世界に見せてやる!というよりアグレッシブな気持ちでコンフェデ杯に挑んだはずだと思います。
攻撃的か?隙だらけか?
ザックは、攻撃的なサッカーで世界を驚かせようと言っているそうです。
ゴールを決められることを恐れて守備ばかりしていても、見ている人は全然面白くありません。やっている選手も面白くないでしょう。
ザックはそんなまるで腰が引けたボクサーような守備的なサッカーではなく、攻撃を前面に押し出したサッカーで勝負しようとしているわけです。
攻撃的なサッカーというのは、攻撃に人数をかけて、数的有利な状況をあちらこちらで作りながら、パスワークやテクニック、コンビネーションで相手DFを崩しきってフィニッシュまで行くようなサッカーのことを言っているんだと思います。確かにそんなサッカーは見ていても、やっている選手たちも楽しいはずです。
しかしながら、当然ですがサッカーには相手がいます。いくら攻撃的なサッカーをしようと仲間同士で誓い合っても、相手はそれを阻止してきます。人数をかけて攻撃に出た時にフィニッシュまで持って行くだけの能力があれば、それは結果的にいい攻撃になりますが、人数をかけて攻撃する為に前がかりになったところで、もしボールを失えば、いい攻撃どころか一気にピンチを招きます。
つまり「攻撃的なサッカー」というのは、志すのは勝手ですが、それが実現できるかどうかは、相手を崩しきれるかどうかにかかっています。崩しきれないにも関わらず、攻撃サッカーだ!と息巻いたところで、それは単に隙だらけのへなちょこサッカーでしかないのです。
捕らえ方によっては、攻撃的かどうかはあくまで結果論だとも言えます。
「力」と「覚悟」のギャップ
今の日本代表は、アジア相手ならば高い確率で崩しきってフィニッシュまで行けると思います。また、仮にボールを奪われても、すぐに奪い返すこともあるし、上手にプレスをかけることで最悪カウンターだけは止めることもできると思います。つまり攻撃的なサッカーをすることができるというわけです。
しかし、世界のトップ相手では、まずフィニッシュにまで至る確率が相当低くなると思います。しかも、途中でボールを奪われて、すぐにプレスをかけたとしてもその局面をテクニックでかわされれば、カウンターの餌食です。
一つ一つの局面で球際の競り合いに勝って、またテクニックを駆使して相手にボールを取られずにパスをつなげてこそ、「攻撃的なサッカー」になるんです。逆に、一つ一つの局面で競り負け、ボールを奪われているようでは、とても「攻撃的なサッカー」は体現できません。
結局、日本代表には、世界のトップを相手に「攻撃的なサッカー」をする力はあるのか?その覚悟はあるのか?ってことに尽きます。
僕は今の日本代表には、仮にその覚悟はあっても、力はないと思っています。
実は、この覚悟があって力がないという状態。これが一番危険な状態です。飛んで火に入る夏の虫状態です。
先日のウルグアイ戦なんてのはまさにそうでした。ウルグアイは中盤に関してはまだ好きにやらせてくれていた感じでした。よく言えば日本の方が中盤の構成力、展開力、突破力で上回っていたと言えるでしょう。
しかし、パスをつなぎながら皆で攻め上がったら、肝心なところでボールを奪われてカウンターの餌食。悪く言えば、罠にはめられているだけです。
これがウルグアイの戦い方であり主導権の握り方なんだと思います。ボールを保持することだけが主導権ではありません。相手に攻めさせて後ろにスペースを充分作らせたところで勝負をかける。そんな戦い方に活路を見いだすのも一つの方法です。一般論的にはとても「攻撃的なサッカー」とは言えませんが。
2つの理由
アジア予選という一つの大きなハードルを超えたことによる高揚感と、並外れた向上心が相まって自分たちを過大評価してしまったんでしょうか。ワールドカップに向けて、選手個々の、「世界を相手にいいサッカーをしよう、攻撃的なサッカーをしよう」という思いが強くなりすぎた結果、「力」と「覚悟」に大きなギャップができてしまったというのが、ワールドカップ出場決定後に、失点が急増した大きな原因の一つだと私は思います。
選手一人一人の攻撃に向かう覚悟が強すぎたばっかりに、チーム全体が大きくバランスを崩してしまったのです。いや実際はそれほど大きくはバランスを崩したわけではないと思います。ただ、世界のトップレベルは、少しでも隙を見せたらアウトです。一瞬空いた小さな穴でも見逃してはくれません。
吉田の守備のミスにスポットライトが当てられがちですが、それはたまたま目に見える形で現れた部分であって、根底にあるのは全体のバランスだと思います。決して吉田の守備が下手になったから失点が増えたわけではありません。もちろん吉田自身は個人的なミスを省みて修正するべきですが。
要するに、今までより遙かに強い相手に対して、今までより遙かに攻撃的に挑んだ為に、チームとしての守備のバランスが崩れてしまったのではないかということです。決して守備陣だけの問題でもないし、DF個人の問題でもないと思います。
妄想「攻撃的サッカー」は捨てるべき
ワールドカップまで1年を切りましたが、世界の列強と戦う為には、まだまだ真正面からぶつかっていくには力不足は否めません。
試合を自分たちがコントロールできるという前提で、どんな攻撃を仕掛けるかを鍛えるのではなく、まず相手の攻撃をしっかり受け止められる土台を作ること、そして、それをどうやって攻撃につなげるか?どうやって自分たちの時間を作り出すのか?という部分を突き詰めていくべきだと思います。
以上、「ザックジャパンの守備が崩壊した2つの理由」でした。